2017年2月21日火曜日

春を告げる香り 思いをつなぐ果実


2月も半ばを過ぎて、暦の上ではもう春なのだけど
そう感じることは難しい。

雪がはらはら舞う日もあるし
北風が身に沁みて、くじけそうになる日もある。

少しでも春を感じたくて
ぽつぽつと小雨の降る週末
海を渡り、淡路島のツギキ×森果樹園さんへ。



昨年ここに伺ったのは晩秋だった。
温州みかんの収穫はとても楽しくて、家族の思い出ができた場所。
蝉の抜け殻がたくさんあって、バケツいっぱいにみかんを採った。



長屋門の隅っこで、ひっそり咲いている梅の花に見惚れる。
もうこんなに開いているなんて。

「はじめまして」
里帰りから戻られた奥さまの晶子さんと、3ヶ月の赤ちゃんにご挨拶。

くりくりの眼にちいさな手。
この日はちょうど生後100日だそう。
鳴門みかんの今年初収穫の日と重なり、ほんとうにおめでたい日。



朝いちばんで伺ったけど、収穫はもう始まっていて
お手伝いの方々に混じり作業開始。
秋にはまだ蒼かった果実が、綺麗なオレンジに色付いている。


「これ、どうぞ」
森さんから手渡されたのは、持ち手の長い剪定ばさみ。

枝を挟みぎゅっと握ると ぱちんっと切れて
そのままそうっと地面に降ろす。
楽しい。

繁る葉の中、遠くまで目を凝らして
今が採り頃の鳴門みかんを探す。

「最初はいいんやけどな、後で首が いと〜う(痛く)なってくるんや」

ベテラン農家さんの言葉に、なるほどと頷く。


切り取った枝から立ちのぼる、この香り。
なんてジューシーなんだろう。

「うわ〜春だ!春がきた!」

あちらこちらで歓声があがる。




かごいっぱいに収穫された鳴門みかんを
濡らしたタオルで一つひとつ磨く。
大変そうに思える作業も、皆で一斉に行えばあっという間。



作業を終えてひと息ついたら
採れたて、絞り立てフレッシュジュウースで乾杯。
甘くやさしい酸味が、口いっぱいにひろがってゆく。


幻と言われるまでに収穫量が減っている
その味と香りをじっくり味わいながら談笑する。
それぞれの夢と、淡路島の「これから」を考えて実践する
愉しく面白そうな方たちと。


時代を超え受け継がれる鳴門みかんと共に
たくさんの思いがつながり、春が来る。

次の日にお祖父さまのお誕生日をひかえた果樹園には
森も人も一緒になって
素敵な笑顔の花が、いっぱい咲いていた。



お手伝いのごほうびを
持ち帰り気が付けば
いつの間にか 分類されている

春の香り、いただきます



2017年2月13日月曜日

営みの生まれる場所 Satoyama landscape

すっきりと晴れた空
冬真っ盛りの日曜日。

北区にある、あいな里山公園へ
落ち葉拾いのお手伝いに。



木々たちの隙間から
眩しい朝の光が差し込む。

軽くてぴかぴかの熊手を借り
おおきな袋を受け取って
持参した軍手で落ち葉掻き。

うっすら残る雪
ざっざっという音

枯れた葉っぱと湿った土の香りがひろがる。


スマホの電波が届かない
テレビもラジオもない場所で
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。



こんなことを言うと変に思われるかもしれないけど
時々、自分は植物なんじゃないかと思うときがある。

動物よりも植物に近い感覚があって
木々たちや、ひっそりと咲いている野草たちに
すごく親近感を覚えたりする。



フキノトウやつくし、山菜なんかが普通に身の回りにあるような
石垣の隙間からスミレの覗くような田舎で育ったせいかもしれない。
実際は人間なのだから光合成もできないし
おとなしく ずっと同じ場所にいることもできないのだけど…。



「結構、きれいになったね!」

作業を終えて足元を見ると、緑色の苔や草や新芽。
落ち葉の毛布であたためられて、外からは見えない部分で
こんな風に新しい命が生まれているのだと気が付く瞬間。


皆で集めた落ち葉は、地元の農家さんが堆肥として活用するのだそう。
軽トラックにどっさりと積まれた、植物からの贈りもの。


生きることは
つながり合うこと

互いに無理の無いカタチで
緩やかに循環することは

さまざまな生き物に
たくさんの豊かさをもたらすのだと思う



「伝庫の家」に移動して
里山作業を体験する。

ナタを振るうことも
かまどでご飯を炊くことも
都市生活では出来ない経験。

最初は恐るおそる、でも
慣れて来ると面白い。



作業後、ここで収穫されたお米でお粥をつくり
切り干し大根、切り干しかぶ、蒸かしたジャガイモをいただく。
どれもとても美味しくて、やさしくきれいな味がする。


お椀の後片付けをしていると
話し声が聞こえてくる

「この割り箸、どうします?」
「あぁ、そこで燃やすからいいよ」

捨てる、という言葉がなくなると
なんて気分がよいのだろう

焚き木の中で燃やされた割り箸はきっと
訪れる人たちをやさしくあたためてくれる

循環も、思い描く未来も、与えられるものではなく
自分たちで創り出すもの

人がつながり、思いがつながり、新しいカタチが生まれる


茅葺き屋根も、おくどさんも
「日本昔話」や「民話」を知らない今の子供たちの目には
珍しく真新しいものとして映っているのかもしれない

資料館ではなく、植物園でもなく
つくったり育てたり、収穫したり
実際に作業して体験することができる場所

なんか、面白そう
ちょっと、行ってみたい
それがきっと 入り口になり
そこからきっと 流れが生まれる

手入れをする人たちがいて
さまざまな生き物たちの多様性が保たれながら
皆が集い、つながり、営みが生まれる


始まったばかりの物語
いまから、ここから


国営明石海峡公園神戸地区
あいな里山公園
〒651-1104
神戸市北区山田町藍那字田代